新しい年を迎え、みなさんいかがお過ごしでしょうか。静岡県立こども病院を辞めてからもう2年が経とうとしています。こども病院から離れても、みなさんが元気にご活躍されているだろうかといつも気になっています。とくに、医療や療育について理解してくれる医師が少ないという苦悩の声を耳にして、何とかならないものかと考えこんでしまいます。今の医学や医療は専門がこまかく分かれすぎているためでしょうか、みなさんの悩みや疑問にこたえられる医師は非常に少ないのが現状のようです。もちろん私だって充分なことはできませんでしたが、できるだけみなさんの生活の場におもむくようにして、一緒に考えさせていただき、どんなことでも学ぼうとはしてきました。それでもお伝えできたことはほんの少しでした。とくに、ダウン症についての基本的なことを、病院の外来という限られた時間と場でご理解いただくのは難しいかもしれません。 そこで、「新ダウン症外来」として、ダウン症についての基本的なことがらを書いてみることにしました。これは私の30年におよぶ経験と、ご本人や親ごさんをはじめ、いろいろな分野の方々から聞いたこと、それにさまざまな文献をもとに、考えてきたことです。
 将来を考える会には、ダウン症以外の染色体異常や他の障害をもった方の親ごさんも入っておられますが、ぜひこの機会にダウン症についての正しい知識を得ていただき、ダウン症のお子さんやご家族といっそう親しくなってください。それに、ご自身のお子さんの状態を理解するための見かた・考えかたとしても利用してくだされば幸いです。さらなる質問がある場合はお答えします。静岡の厚生病院で月1回外来をしていますから、そちらにいらしてくださっても結構です(電話予約です)。

T.ダウン症について最も基本となる知識 
  ダウン症は先天的な疾患の一つです。ですから、ダウン症とダウン症をもった人(子)は全く違います。あたりまえじゃないかと思われるかもしれませんが、彼らのことをいうのに、ダウン症が、とかいわれていることがあります(ダウン症のお母さん、なんて変な言葉を聞いたことはありませんか)。さもないと、ダウン症をもつ人(「ダウン症の人」と略します)が「立派な人間」であることも忘れられるおそれがあります。親ごさんたちは、ダウン症という物を生んだのではなくて、「人間であるわが子」がたまたまダウン症をもっていたわけでしょう?
 ダウン症の正式な名称は「ダウン症候群」で、イギリスのジョン・ランドン・ヘイドン・ダウンという医師が初めて報告したのでつけられた医学用語です。この場合、「症候群」とは、原因がわかっていて症状もわかっているけど、どうしてそうなるのかがわからない先天性疾患につかう専門用語です。「症」という語は、医学的には病気そのもののことをいいますが、ここでは一応、一般名の「ダウン症」をつかいます。
 なお、ダウン症には下がるという意味はありません。低下すると誤解されるのでアップにしたいという声もありますが、アップも良い意味ばかりではないですし、それよりダウン症の正しい知識を広めるほうがいいのではと私たちは考えています。

U.原因は21トリソミー
 ダウン症の原因は、21番染色体が一つ多い21トリソミーです。21トリソミーはダウン症候群の別名でもあります。多くの方が、染色体検査で21番が1本多い「標準型トリソミー (女児は47,XX,+21、男児は47,XY,+21)」だったのではないでしょうか。ダウン症で一番多いのはこの型です。数%の方は転座型やモザイク型と言われたのではないでしょうか。これは診断されたとき必ず説明されていますが、そのときは頭が真っ白になっておぼえていなかったということも多いので、知らない方は医師に聞いておかれたほうがいいでしょう。

V.ダウン症の特徴
 ダウン症というと、説明のときにもすぐに、顔が特徴的とか発達が遅れるといった個々の症状があげられるようですが、断片的で重箱の隅をつつくような見かたは誤解をまねき、偏見につながるおそれがあります。そのため、まず全体から見ていく必要があります。
 ダウン症があっても、当然のことながら立派な人間ですが、ダウン症の特徴による影響も知らなければ正しくかかわることができないでしょう。とくに特徴的な症状を知っている必要があります。ただし特徴と症状とは違います。特徴があるだけで問題にならなければ症状にはなりません。それは個性と言ってもいいでしょう。ではダウン症の症状や問題につながりうる特徴とは何でしょうか。それは大きく分けて3つあると考えられます。

1)筋緊張低下(低緊張)
2)特徴的な発達遅滞
3)合併症(併発症)の可能性

極端なことを言えば、この3つ以外は一般の人(子ども)と何ら変わりはありません。一般の人だっていろいろな個性の人がいますよね。だから「ダウン症をもつ人」という表現が適切なのだと思います。ダウン症という特殊な人がいるわけではないのです。

次回は、このひとつひとつについてお話していきます。




ダウン症外来 その1