ダウン症外来 その18

間があきましたが、その他の身体的併発症について(要点だけですが)書いていきます。

 

子どもでよくみられる病気に中耳炎があります。中耳炎は一般の子にも結構みられるものですが、ダウン症があるとなりやすくなります。特に、ダウン症の子に見られるのは浸出性中耳炎です。

浸出性中耳炎は、耳の鼓膜の奥(中耳腔)に液がたまるため、鼓膜の動きが悪くなり、耳鳴りが出たり、聞こえが悪くなるという厄介な病気ですが、痛みや発熱などがないため見落としがちです。気づかないうちに鼓膜に穴があいていたということもありますから、定期的な耳鼻科検診が必要です。その貯留液は外耳から入ったのではなく、口の中から中耳につながっている細い管(耳管)を通って細菌やウイルスなどが運ばれ、感染巣をつくったり、炎症が起こったりして、それが完全に治らず、だんだん液がたまって浸出性中耳炎になります。原因となる病気は、鼻副鼻腔炎やアデノイド感染、咽頭炎、扁桃炎などです。ダウン症の子は上顎が小さいため副鼻腔も小さく、副鼻腔炎になりやすいのです。その上、口の中の構造の違いや筋緊張低下といった特徴があるために、耳管に細菌などの異物が入りやすいので、一般よりおこりやすいと考えられています。さらに、扁桃腺やアデノイドが大きいと(ただし大きさは普通でも、ダウン症の子は口の中が小さく、気道もやや狭く、呼吸に使われる筋肉の量や働きが少ないので、影響は大きくなるでしょう)かかりやすくなります。口蓋裂があるといっそうかかりやすく、治りにくくなります。そのため早期発見が必要ですし、かかったら根気よく治療しなくてはなりません。難聴を防ぐために、鼓膜切開や鼓膜チューブ留置がなされますが、ダウン症がある場合、反復しやすいですから、言葉の発達を阻害しないように、鼓膜チューブを早めに入れるほうがいいでしょう。アデノイドの切除も考える必要があります。

 

アデノイドや扁桃腺の切除は、中耳炎がなくても、いびきをかいたり、熱を出しやすい子にはお勧めします。静岡県では耳鼻科医がかなり積極的に手術してくださるので有難いことです。最近、東京都内のお母様から、病院でアデノイド切除を勧められているけど、近くに手術をした人がいないので心配という相談を受け、今でもそんな状況かと驚きました。静岡の話をしたらびっくりされていました。

アデノイドや扁桃腺の肥大は、成人になり硬くなって手術の後の出血などが増える時期よりも前にしたほうが、手術する方もされる方も楽です。また、老齢期になると、これが悪さをして、呼吸や食事などに影響を及ぼすことも充分考えられます。ダウン症の人達の寿命が伸びていることを考えると、老後の健康な生活も視野に入れた医療計画を立てる必要があります。

 

その他、ときにみられる病気について書きます。

尿路の問題、とくに膀胱からの尿の逆流や、排尿後の膀胱内残尿はときどきみられます。これらは尿路感染の原因にもなりますし、お漏らしがいつまでも残って、しつけの問題や発達の重度の遅れと誤って受けとられてしまいがちです。これにも筋緊張低下や筋肉量の少なさが関係していそうです。腹筋や背筋を鍛える運動が改善するかどうかよくわかりませんが、運動することは感覚や自律神経の発達も促しますので、総合的にみて、改善につながる可能性は充分あると思います。

 

けいれん発作が発症することがあります。

赤ちゃんのときに出てくるのは、ほとんどが点頭てんかんです。ただし一般にみられる点頭てんかんとは違うようです。ダウン症でみられる点頭てんかんは、通常の点頭てんかんと原因が違うのでしょうか、治療によって跡形もなく治ることがほとんどです。ただし、診断が遅れ治療も遅れると、けいれんによって発達は大きく障害されてしまいます。 

 点頭てんかんは、あたかもおじぎをするように、頭をコクッと下げるのが特徴ですが、それを、この子はもうおじぎができると思って放置すると手遅れになってしまいます。このような様子が見えたらすぐに小児神経の医師に診てもらわなければなりません。

まれですが、けいれん発作が治療しても続き、発達も遅れることがあります。このような難治性のてんかんの多くはレノックス症候群と呼ばれ、一般でも小児期のてんかんの1〜4%くらいにみられるそうですが、ダウン症で多いか偶然の合併かはまだよくわかっていません。早くから、経験豊かなてんかん専門の小児神経科医に治療してもらうことが悪化を防ぎます。

 

思春期から成人のダウン症の人で、ストレスなど精神的な負担によってけいれん発作が現れることがあります。以前、静岡てんかんセンター(今の静岡神経医療センター)の先生から、けいれん発作の型と脳波が一致しない、精神的な原因からくる発作ではないかと、思春期早期の女性を紹介されたことがあり、さすがプロと感心したことがあります。その後、小児神経や小児遺伝の学会にもダウン症の人の精神的な発作の報告が出されました。このような場合には、まず、今の生活全体が本人に合っているかどうか、頑張りやさんで学業や運動や仕事をこなし、それをほめられ、どんどん頑張ってしまっていないか、本人が「自分の主人公」になっているかどうか、自分で考え自分のペースで進めているかどうかなどを再考し、生活が合わなければ変えていかなければなりません。生活改善をしながら、様子をみて抗けいれん剤も徐々に減らしていく必要があります。発作がおこるのは生活のバロメータのようなもので、発作がおこった所での生活環境・対人環境が適していないことを示しています。放っておくと、もちろん精神障害に進んでしまいますから、脳波の異常が少なくても安心しないこと。けいれん発作も赤信号になるのです。

また、前にも書いた通りダウン症の人は薬が効きやすく、抗けいれん剤も効きすぎることがあります。

 

これは非常にまれですが、もやもや病(ウィリス動脈輪閉塞症)に似た病気が発症することがあります。もやもや病というのは、脳の血管がもやもやした煙のようであることからつけられた名前です。症状は半身や手・足の麻痺、歩行障害、けいれんや、、手足が勝手に動いたり、言葉がうまく出なかったりすることが多く、ときに勉強ができなくなったり、落ち着きがなくなったり、目が見えにくくなったりすることがあります。このような症状があったときは疑って小児神経や脳外科ですぐに診てもらわなければなりません(ほかの脳の病気も否定できませんし)。

 私は一人だけ経験したことがあります。まだ幼児ですが、それまで歩いていたのに、立ちにくくなり、そのうちに片手もだらっとしてきました。ダウン症で考えるべき病気なので、すぐ脳外科に紹介したところ、脳の血管造影で、もやもや病様の変化が見つかりました。

 もやもや病は難病(小児慢性特定疾患)に指定されていて診断や治療には公費が適用されます。しかし、ダウン症があると難病から除外されます。同じ検査、同じ治療なのに、ダウン症だと難病指定から外れてしまうというのは変だと思いませんか? 

 

 ダウン症の人達は皮膚が乾燥しやすく、傷つきやすい傾向があります。唇が切れている人もよくみかけます。また色白で紫外線にも弱そうです。皮膚の老化の原因は、そこにあるのかもしれません。それなのに、ダウン症の成人で肌の手入れをきちんとしている人は多くないようにも思います。唇のまわりが切れて血が出ているのを放置してはなりません。健康保持はもちろん、知的にも低く見られて、社会参加を妨げてしまいます。また、お母様はちゃんとUVクリームを塗っているのに、お子さんは何もしていないということはありませんか。肌が弱いので基礎化粧品の選択は慎重にしないとなりませんが、日常の正しい洗顔と肌の手入れも当然の身辺自立に入れてほしいものです。

 

併発症の問題はこれでひとまず終わりますが、ご質問があればお受けして、このコーナーに書きますので、ご遠慮なく、静岡ダウン症児の将来の役員さん宛送ってください。