ダウン症外来 その23

 多くの親ごさんから、次のような質問をよく受けます。「ダウン症の人(子)についてわかってほしいけれど、どう説明したらいいだろうか」、「学校(職場)での理解がちょっと違う」。
 どんなことであっても、理解がされないということは辛いことです。お子さんのことが理解されないのは、親ごさんにとって大きなストレスになるのはもちろんですが、気持を訴えることの苦手なご本人にとって、その辛さは想像を絶します。それが心の底によどみ、ひいては人生そのものを脅かされるほどの重大な問題になることすらあります。
 本来は、ダウン症のご本人と、長い時間一緒にいて、自然に関わるのが一番でしょう。でもそれが可能な場合は普通あまりないので、悠長なことも言っていられません。それに、人によって見るところや経験が大きく異なっていますから、共通のイメージをいだくのはなかなか大変です。なかには頑固な思いこみをもってしまう人もいますから、ダウン症の人達に対する偏った見方が改善されるのは容易でなさそうです。これが最良という説明はおそらくないでしょうから、いろいろなやり方を皆で工夫し、試みを続ける必要があります。
 私もいろいろと試みています。今回は、短い言葉による説明を考えてみました。
 なお、他の人(子ども)に理解を求める説明のなかで、障害という言葉を使うと健常人と分断されてしまうことから、白梅学園の堀江まゆみ先生は(JDSで成年後見制度の講演をされた方です)、「苦手」という言葉を使うと、誰もがもっている苦手と共通なんだという意識が芽生え、「苦手が多いだけ」なんだということで、皆とつながると言っておられます。

支援してくださる皆様へ

6つのお願い 

ダウン症を有する人に
1)              レッテルを貼らないでください。
2)              評価の前に理解し共感してください。
3)              問題があったら要因を調べてください。
4)              発達年齢は一人の中でも一律ではないことを知ってください。
5)              ダウンタイム(Downtime)を設けてください。
6)              常に原点に戻ってください。
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これを解説しますと
1)             レッテルを貼らないでください。
 レッテルは偏見・差別につながります。特定の分野における専門用語も、言う(書く)人と聞く(読む)人の立場が異なり共通認識を欠いた場合、偏見につながりやすいのです。
 保護者・支援者がよく口にされ、レッテルが貼られている言葉の例をあげますと、障害児(者)、ダウン症児(者)、ダウンちゃん、知恵遅れ、症状、精神疾患(障害)、退行、常同運動、老化など…
  これらは人間として対等であることを忘れてしまう言葉でもあります。

2)             評価の前に理解し共感してください。
 もし「問題だ」と思われた時は、ご本人の「辛い」気持への共感が最重要です。
 支援学校で、多くのダウンの子は素直で手をかけなくても大丈夫と思われているとも聞きます。逆に言うことを聞かない子は、わがまま、または遅れが重度とだけ判定されていることが多いようです。人間としての基本とダウン症の特性を理解しないままの評価は後にツケを残します。

3)             問題があったら、まず要因を調べてください。
 まず身体疾患がないかどうか調べてください。精神障害と思われても 精神的要因は周囲の無理解・不適切対応によるストレスや人間関係のつまずき、または彼らの善意が届かないときなどが多いようです。言葉で表現するのが苦手なことや、我慢強い人が多いことも知っていてください。
 要因は完全にわかる必要はありません。だいたいわかったら対処に向かう必要があります。

4)             発達年齢は一人の中でも一律ではないことを知ってください。
 誰でも発達年齢は一律でないのですが、発達障害のある人は特にバラツキが大きくなりやすいのです。発達検査や知能検査で均一の結果が出ても、それは発達や能力の一部を検査しただけにすぎません。これが出来るからこれも出来るはずとか、逆に、これが出来ないからこれも出来ないだろうと決めつけないでください(例えば、言葉が出ないから文字は読めないだろうとか)。外にあらわれている発達は、本人の元来の発達能力以外に、環境の影響(能力が伸びる環境/遅れを招く環境)、豊かな生活体験/経験不足などの結果を含んでいます。

5)             ダウンタイム(Downtime)を設けてください。
 ダウンタイムとはリラックスタイムのことです。頑張り続けると誰でも疲れて心身に支障がでます。ダウン症の人は一般人よりも心身の器の量が小さめなのにもかかわらず、疲れを見せないで頑張ることが少なくありません。それをもっと頑張らせたら、燃え尽きてしまっても当然でしょう。次々に課題を与えていくことをしないで、一段落したら必ず休みをとらせてください。

6)             常に原点に戻ってください。
 原点とは、ダウン症の特性を知ることです。この特性を知っていないと「一般の人と同じで時間がかかるだけ」だったり「ダウン症としては正常」であるのに異常と判断してしまうことがあります。さらに、環境によってメリットもデメリットになることもあります。

ダウン症の特性とは
@     ダウン症それ自体は病気でも障害でもなく人類のバリエーションである
A     尊厳をもった立派な人間であり、特性以外は全く「普通」である
B     永遠の子どもというのは誤り、それは環境で作られる
C     発達はゆっくりで、考えて理解するのにも時間がかかる
D     長期記憶が良いが、時間の経過を把握するのは苦手で学ぶ必要あり
E     知的発達障害があるので、学ぶのに時間がかかるが勉強好き
F     抽象的、漠然とした話は理解しにくいので説明は具体的に
G     心優しく、ひとの気持ちを汲み、思いやりに富み、感受性強い
H     他の人が争っているのが嫌いで心を痛める
I     目で覚え、観察力・形態認知・空間認知に優れ、模倣上手
J     言葉で表現するより行動にあらわすほうが早い
K     耳から理解するのは比較的弱く、話をしっかり聴くのも苦手
L     リズム感に優れ、体でリズムをとるのが上手
M     想像力や空想力が豊かで、適度ならばストレス解消にもなる
N     独り言もストレス解消に効果があるが、場所を選ぶ必要あり
O     こだわるのは保守性、美学のあらわれである
P     手は器用、ただ動作が幾分遅く、経験不足で手・指の筋が弱体化
Q     筋緊張低下(低緊張)があり筋量は一般より少ない
R     一般人よりも罹りやすい病気と罹りにくい病気がある
S     薬が効きすぎ、薬の副作用がでやすい傾向がある
( シカゴ成人ダウン症センターのMcGuire、Chicoine両先生による「ダウン症をもつ成人の心のウェルネス」に追加: この本はJDSで翻訳中です )

 次回は、この特性についてご説明しようと思います。