静岡
ダウン症児の将来を考える会

河内園子さんのご講演の報告
「楽しい明日のために『今』を大切にする工夫」
1999年9月9日 藤枝生涯学習センターに於いて


 9月9日、藤枝生涯学習センターにて、河内園子先生をお招きし、『楽しい 明日のために、今を大切にする工夫』と題し学習会を行いました。
三十数名が聞き入るなか、ご自身の子育てを基に、様々なエピソードを交え ながら語ってくださいました。
 まず始めに”愛されて育つ”ことの大切さ、すなわち人を敵と思わない環境を それぞれの家庭で造り上げていく。人から気分を害する言葉を投げかけられた時 でも、言われたことを責めるのではなく、「自分にもこんな悪いところがあったな。」 と見つめ直し、プラスに考えていける環境作りを幼児期より育んでいく。これが 親の大切な役割でもある。これは我々の人生の中にも、多分に起こりうることですね。
物事をプラスに考えていく。子育てから学ぶ大きな財産だと思います。

 続いて、幼児期〜学童期〜成人に至るまでに分けてお話くださいました。

乳児期  
 娘(夏木)さんは体が弱かったため、ほとんど病院で過ごした。そのため、子育て というより、「身体さえ丈夫ならば、命さえあれば、」という日々を送られていた。
幼児期
 お座りができるようになり、音楽を聴くことが大好きになった。その時になって思えば 乳児期に抱きながら歌ってやっていた事が後に音楽を愛し、言葉に変わっていったのかな?と先生はおっしゃいます。現在趣味として楽しく演奏されるハンドベルも、このころ 心の中に培ったものかもしれませんね。
歩き始め
 自分の足で歩き始め、視界が広がったことをうけて、「お兄さんやお姉さんがしていたことをこんなにもやりたかったんだ、真似したかったんだ」と気付かされたそうです。ずっっと貯めていた好奇心が生んだ大きな成長だったのでしょうね。
  
 ”母の一喜一憂”は子供にとって親の期待感であり、「こんなこともできないなんて」 と残念に思うことが、親以上にショックな出来事だという。お母さんの顔の表情は、子供 から見た親のバロメーターなのかもしれませんね。歩き始めて、「どうせできない」という 言葉が、「できるじゃない、できるじゃない」に変わっていき、3才4ヶ月頃ある方が 「せっかくダウン症の子を持ったんだから・・・」と思いがけないこんな温かい言葉をくださったそうです。ゆっくり発達し、ゆっくり感じてくれるから、育つ過程をしっかり見つめられ、「子供ってこんなに感性の持ち主だったの」と身体で親に教えてくれる。確かに成長するたび、何らかのメッセージを残してくれる。これはダウン症の子供を持つ私たちの特権かもしれません。  

ダウン症の子供
 自分の能力を本当によく知っていて、自分で出来ないな、と思うことは絶対にやらない。 これを俗に頑固ともいうが、その頑固には必ず理由がある。(体調 出来ない 理解できない等)その時なぜ頑固したかということを汲み取ってやることが大切。

自己決定
 自分のことを自分で決められる能力は、人間形成の上でとても重要なことで、幼児期、歩き始め(手と足が使いこなせるようになる)を機に、自分でさせていく経験を積み重ねていく。例えばパンツの着脱等、トイレから出ると親がいつもはかせるのではなくて、少しずつ手を貸しながら離していく動作を繰り返す。そうすることで、初めは自分の脱いだ パンツに見向きもしなかったのに、いつの日か自分でパンツをお母さんの所まで運ぶようになり次には片足を通すようになるかもしれない。そんな親子のふれあいを通して子供にも自信が芽生え、親にも根気がついていく。

三歳児の変化
 「できた、できた」の関係から「ありがとう」の関係に変わる。小さなお手伝いを通じて、自分が家族の中で役に立つ人だと学ぶ、また、必要としてくれている人がいるということを「ありがとう」を通して実感していく。そんな場をたくさん作ってあげることが 母親の役割でもある。

小学校(低学年)
 この時期最もピークともいえる好奇心のかたまりで、数々の失敗もバネにしていきます。
”乗り物を間違えたときは終点まで行きなさい。そうすれば必ず運転手さんが面倒をみてくれるから・・・”と生活の知恵も身につけます。

小学校(高学年)
 幼児期に味わったいたずらや失敗から手に入れた体験がこの時期大きな力を発揮してきました。

 ”知能とは、決して成績で評価されるものではなく、社会生活をしていく上でどれだけ自分の力を使い切って、活かすことができるかである。”
まったくその通りだと思います。人間の価値観もそうした概念の中で成り立つものだと思います。

家の文化
 ダウン症の子供が産まれたからこそ広がった部分、自分が変わった部分等、それぞれの家庭で味わった喜びや温かさを、家の文化として造り上げていく。

 文章を書くことが好きな人、絵を描くことが好きな人はひととの関わりを年賀状や、手形を押しただけの手紙という方法で楽しむ。素敵なことですね。返事を受け取る喜びも同時に感じることでしょうね。

中学校
 少し落ち着き、自分がしっかり芽生えてくる。どんなものに興味を持っているか等、理解できる時期、ボランティア活動等を通して、しっかり生きる力を身につけさせてやる事も大切な時期。

高校
 感情がとても豊かになる時期。親元を離れる力をもっているか否かを親が見極めてやる。
注意すべき点としては、知能的には行けるなと思えても、必ずしも心が育っているとは限らないという事、体験学習等を利用しながら、自分で体験し、決定権を与えてやる。

社会
 保護する立場から、支援者へと変わっていく時期、アフターファイブの過ごし方等、趣味の時間をいろいろな場を借りて楽しみに変えてやる。また、輝く場をたくさん作ってやること。これが成人になってからの、大きな親の役割となっていく。                           
                                     講演内容 ここまで


 親の役割、それは子供が一歩階段を上がっていくたび、自らもまた成長すべき時なのかも しれませんね。それぞれが育む家庭の文化の中で、人の優しさに触れ、決して受け身ではなく、自分の目、耳、手、足、そして心で感じ、行動していく。生きる力は、幼いころからの小さな小さな積み重ねであることを、今度の学習会を通して学びました。
 私たちの尊敬する大先輩でもあり、経験豊富な河内先生より”河内子育て論”ともいうべき、子育ての手引き書をいただいた気がします。なにぶんにも短い時間でしたので、まだまだ伺いたいことが多々あったことと存じますが、大変貴重な時間を過ごせたことを満足 している次第です。

学習会に参加された方の感想

※子供は養護学校の小学2年生です。最後にも先輩のお母さんとの交流が大切とのお話がありましたが、今日のお話も、小、中、高校のお話、社会へ出てからのお話と一つ一つ大変参考になりました。
将来を考えたとき、生活体験の大切さ、楽しみを持つこと、家庭の文化のお話などとても良いお話を伺えました。ありがとうございました。

※生活体験の大切さを感じました。いろいろなことをたくさんやらせてあげたいと思います。
※一つ反省させられたのは、「ありがとう」という言葉が私には少し足りないと思いました。指示だけ出していたようなきがしました。なにげなく過ごしていた毎日ですが、お話を聞いて新鮮な気持ちになりました。また今日から頑張ります。

※もうすぐ2才になる息子を中心に毎日楽しく過ごしています。今日先生のお話を聞き、母として少し反省しています。人前では「○○ができるようになったよ。」などと大きい気持ちでいるのに対し、家庭に一歩入ると、「○○もできない。」などと子供に対しマイナスな事ばかりでした。親が近くで見守りながらゆっくりと、一歩一歩前進することをみていきたいです。そして母も子も一人でも多くの人と接し、いろいろな話などを聞き、これからの自分の子育てにプラスになるようにしたいです。最後に”輝き”という言葉を頭の隅に置き、子供はいつも輝いていてほしいなと思いました。

※育児に追われて毎日明け暮れてしまい、家から出ることもなく情緒不安定で、自分もストレスを感じていました。悩んでいることもあって、相談することもなかったのですが こちらの方に出てきて、話を聞いてもらったりして少しは心の中が楽になったなあと思いました。

※バスに乗ることは覚えているのですが、乗り過ごすことは私も教えてはいないので、さっそく参考にしてやってみようと思います。

※親の心の狭さ、もっと子供を信頼してあげないといけないなと思いました。ついつい出来ない時期が長いと、親もダラダラしてしまったり、なぜやらないのか?子供の気持ちをもう少し理解してあげないといけないなと反省ばかりです。また「ああしてあげればいい。ここは待ってあげよう。」という判断を、もう少し深く子供をみてみたいなと思いました。学校の先生に言われたことですぐ親が動揺してしまうのですが、これからは、ああ、そこを気を付けてあげれば出来るように家庭で練習して繰り返し頑張っていこうとつくづく 思いました。

※”親の根気が子供の成長につながる”という言葉の意味が最近わかり始めてきました。
今日から再び新しい気持ちで、親子関係を築いていきたいと思います。

※親として自分の子供のことはわかっているつもりでも、まだまだ私物化しているなと反省しきりです。残っている可能性を探し出し、生活を楽しむ余裕があったらいいなと思います。

※ダウン症だから、障害児だからというのではなく、子育ての基本を教えていただきました。

※親として子供を持ったことによって、自信を持たせてもらっている。
子供に教わりながら、いろいろな生活習慣のことなども考えている。・・略・・
学校の勉強より生活体験が何より生きていく力となることが、子供を持って余計に 感じます。この子と共に楽しみながら、いろいろなことと関わっていかなければと思います。

※頑固な子と思う事が多くある中、ただ”頑固”なだけでなく、理由があること、親が賢くなっていろいろ考えて育ててあげたいと思いました。

※今までの自分や今の自分、これからどうしていったらいいかを改めて考えることができました。・・略・・一日を無事に終えることだけに追われていた”近頃の自分”を反省し少しでも子供よりも自分が成長したいと思います。
                                          以上 
                                          文責 藤枝グループ


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