静岡
ダウン症児の将来を考える会

ダウン症について
このページは、静岡県立こども病院遺伝染色体科の
長谷川
知子先生に書いていただきました。
このページの著作権は長谷川先生にありますので、
使用、転載される際は先生の許諾を得るようお願いします。

<ペリネイタル ケア 17(3)53ー57、1998より転載>

 わが子がダウン症と診断された親ごさんへ
                      静岡県立こども病院 遺伝染色体科 長谷川知子

 
  赤ちゃん誕生おめでとうございます。赤ちゃんがどんな病気をもって生
まれたのであっても、その生命は尊いものです。ダウン症だからといっても
育てるのが特別たいへんというわけではありません。どの子だって育てるに
は手をかけないとならないでしょう。一緒に遊ぶこと、いつも見守っている
こと、生活のしかたを教えること、悪いことをしたら叱ること、これはダウ
ン症の子でも同じです。ただ、ダウン症の子では普通より時間がかかること
が多いのです。親ごさんががんばらないとならないときもありましょう。そ
れは、合併症の治療が必要なときや、学校に入るときかもしれません。でも、
育てるコツがわかれば決して難しいものではないと、多くの親ごさんたちも
言っています。構えないで、ただちょっと丁寧に育てればよいのですと、あ
る青年のお母さんが教えてくれました。それに『育てて楽しい子』と皆さん
言われます。わからないことや心配事は一人で悩まないで、上手に育ててお
られるお母さんたちに訊いて安心していただき、わが子に合った育てかたを

見つけてください。

 診断名を知らされたときは心に傷を受けて当然です。そして驚き、疑った
り、滅入ったり、など心は揺れ動くでしょう。傷を回復させて、二次障害を
作らないためには心を支えてくれる人が必要です。しかし、心の傷の大きさ
は、今までの人生経験や考えかたにも関係があります。これからの世界が変
わってしまうのかと不安に思われるかもしれません。でも実際には、人生が
これで悪い方に変わってしまうことはまずありえないことなのです。ただし、
今まで「こうでなければならない」という考えをしがちだった人には、世の
中がもっと広くて良いことがあるということも知っていってください。考え
を広げて、心を柔らかくもみほぐしていくほうが傷は早く回復するのです。
障害をもつことが不幸なのではない、不幸と思わざるをえないことが不幸な
のだと言われます。お母さんだけでなくお父さんも、辛い気持を誰にも言え
ず悩んでいたり、仕事などに逃げてはよくありません。家中の皆が幸せにな
るように、家族で語り合い支え合ってほしいのです。

  これはほとんどの人にとって未経験のことですから、担当医の最初の説明
ですべてが理解できなくて当然です。ご家族の方は遠慮しないでいつでも納
得のいくまで質問しましょう。ただ、医師にもそれぞれ専門や得手不得手が
あります。臨床遺伝専門の医師などに相談したり、看護婦・心理士・ソーシ
ャルワーカー・保健婦などでダウン症についてよくわかっている人との協力
関係をつくり、信頼関係のなかで気軽に話し合う機会をつくっていくことが
必要です。

 ご参考までに、静岡県立こども病院で行っている説明を書いてみます。

1)ダウン症候群の染色体について
 ダウン症ではふつう21番目の(一番小さい)染色体が1個多く全部で
3個になっています(21トリソミー)。
染色体は遺伝子のDNAを含んでいて、ふつうは一対(2個)の染色体で
順調に働いているのが、過剰の1個がじゃまをしたことで体の中に働きが
うまくいかないところができたのです。過剰染色体が遺伝によってできる
ことはめったにありません。また、ダウン症の数%に『転座型』がみられ
ます。転座染色体は親から遺伝したものが一部にありますが、その遺伝は
誰の責任でもありません。染色体異常は誰にでもおこる可能性があります
し、その原因に責任をもつという大それたことは人間ごときにできること
ではないのです。なかには『モザイク型』といって21トリソミーをもつ細
胞と正常細胞が体の中で入り交じっているタイプもあります。このときに
は発達の遅れが軽くなることもあります。だからといって個性を忘れて学
業をあおるようなことになると、かえって能力が発揮できなくなってしま
うので注意が必要です。
  染色体異常があると多くは流産して出産に行き着かないのです。『生ま
れてきた』ということは淘汰を乗り越えたということなのです。それは、
特別生命力があり、両親から良いものを沢山受けていて、お母さんのおな
かの中の条件も良かったことをあらわしているのです。染色体に異常のあ
る子は誰にも生まれる可能性があるのですから、その家族だけの負担にな
らないよう社会の皆で支えていくこと、そして、自分のところに生まれて
も困らないように支え合うのが本当の福祉なのです。

2)発達について
  ダウン症では過剰の21番以外まったく正常なのがふつうです。
何もかも異常な子ではありません。発達は緩やかで合併症はあり
すが、ほとんどの合併症は治療ができます。特別な存在と決めつけたら余計
な障害も作られてしまいます。『普通の社会で普通に育てるほうがよい』と
いう意味はそういうことなのです。ただし、この子たちの『ゆっくり育つ』
特性を忘れてはなりません。特に不得意なことには時間がかかるものです。

3)『健常な面』が伸びる育児環境を
  子どもは誰も発達する力を秘めています。大人は子どもを無理に
伸ばすことはできませんが、伸びやすいような
育児環境作りをする努めがあります。その環境とは特別なものでなく、子ど
もが生きていく基礎となる感覚や感性を身につけられる普通の自然な環境な
のです。その子のペースに合って、人と人が豊かにかかわっていける環境が
最良なのです。

4)療育・訓練の意味
 療育とは、子どもが健全に育つための援助の一つで、
その目標は、社会の中でできるだけ自分で考え状況判断する力、生活していけ
る力を身につけることです。療育の基礎には親ごさんの安定した情緒が必要で
すので、心が忘れられるような訓練はとてもお奨めできません。社会で生活す
るには知能より知恵が大切ですから、援助もそれを目的に、暦年齢を考えて過
剰なかかわりにならないよう注意が必要です。保護と過保護は全く違うもので
す。
 リハビリは薬と同じように治療として行われるものです。それはたとえば低
緊張に対して早期に正しい姿勢を教えたり靴を工夫するというように、目標を
はっきりさせて専門家が適切な治療法を決めていくものです。 毎日の生活の
なかでは、子どもたちにとって栄養のある食事と同じように、一番大切なもの
は『豊かな遊び』でしょう。とくに赤ちゃんのときにしてほしいことは、目を
見つめ合って話しかけることと離乳食を正しくあたえることです。ダウン症の
赤ちゃんは、口の中の低緊張と運動発達の遅れのため口が閉じにくく舌が前後
に大きく動いてしまい、離乳食も舌で押し出されやすいので、ついスプーンを
口の奥に押しこみ流しこんであたえがちです。これでは丸飲みになりやすく唇
や口の中の機能もよく発達できません。離乳をはじめる時期は普通と同じでい
いのですが、スプーンをまっすぐにして唇のところにおき、自分の唇で食べも
のをとり、口の中でゆっくりモグモグしてから飲みこむ、という正しい動きが
できるような食べさせかたをいつもしていくと、知らないうちに上手に食べら
れるようになります。

5)健康管理・合併症の治療・予防接種など
  医学書などをみると多くの合併症が書いてありますが、
それがすべてあったら生まれてはこれません。でもこれから合併症がでるか
どうかは誰もわからないことですので、ふだんと様子が違ううときはすぐに、
かかりつけ医に連絡してください。もしあっても、早期にみつけてもらえるよう、
元気でも定期的に診察を受けることをお奨めします。
  もともとの病気(ダウン症)は治らないし、治療は合併症だけの対症療法だ
からと悲観的になることはありません。そもそもどんな病気も対症的に治療さ
れているのです。それに合併症があると持ちまえの能力も阻害されやすいので、
障害の悪化を防ぐためにも積極的な治療は必要なのです。
  予防接種も忘れないように。体の大きさと予防接種の副作用は関係がないの
で心配はいりません。
  診療をする医師は、遠くの『有名な偉い先生』よりもできるだけ『近くの親
切な良医』を見つけたほうがよいのです。それも困ったときだけ飛びこむので
なく、ふだんのようすを知ってもらっておくほうが適切な助言が受けられるで
しょうし、いざというときも早く正しい対処をしてもらえます。
  ダウン症の子の合併症の治療は特別でも難しいわけでもなく、子どもを専門
に診療している医師であればできるはずです。もしそこでは難しい場合にはそ
れぞれの専門医に紹介してくれるでしょう。医師もそれぞれ役割があるのです。
 専門家は、それほど問題とは思わずに状態を軽く口にすることがありますが、
それに過剰に反応すると、本当は大したことでなくとも心配のほうが大きくな
ります。何でも尋ねて気持を伝え、そのつど誤解をといておきましょう。
  寿命は昔よりはるかに延びています。平均余命50才と言われますが、これは
一部生命力が特別弱くて短命の子がいるために引き下げられているのです。ふ
つうでもその人の寿命を言い当てることはできないでしょう。寿命を不安に思
って過ごすよりも、その日その日を確かに生きていくことが一番ではないでし
ょうか。

6)関連書やインターネットなどでの過剰情報に注意
 今は情報があふれていますが
本当に使えるものは少しです。情報は子どもを暖かく見守り十分にふれあって
初めて上手に選んで有効に使えるのです。また、家族の見方が、役割が違う医
師などの専門家の見方と全く同じになっては、子どもの全体の姿が見えなくな
ってしまうでしょう。子どもとの共感がないまま得た情報はうまく使えないの
で、もっと良い情報がないかと探していき、結局は不安が不安を呼んだり、情
報収集の面白さにのめり込んで子どもがどこかに行ってしまう、ということに
もなりかねません。ただし、親ごさんだけではわかりにくいところもあります
ので、子どもを続けてみてくれている主治医や相談員、保健婦といった専門職
の人と子どものようすを話し合うことも大事です。それによって見方も広がり
ますし、適切に判断する力も養われるしょう。

7) まがいものの治療・療法や療育にご用心
 この治療で発達が伸びる、これを食べれば体力がつく、××法でIQが上がる、
などという宣伝のなかには眉唾ものの治療・療育も少なくありません。
本当に子どものためなのか判断が必要です。それを見極めるコツを考えて
みましょう。たとえば … (1)常識的で飛躍していないか (4)効果が具体的に
示されているかどうか(5)普通の日常生活を圧迫しないかどうか、など。
親はとにかく発達を伸ばそう普通に近づけようと
焦りがちですが、それが怪しげな商法のワナをまねきやすくなります。子ども
たちが発達するのに必要な時間はそれぞれ違うのです。ダウン症の子ではふつ
うより発達に必要な時間が長いのです。それをしっかりわかってあげないとな
らないのです。親ごさんこそわが子の本当の専門家なのですから、人に頼りす
ぎず、もっと自信をもってください。それには、子どものありのままの姿を暖
かい目で見守って、過小評価も過大評価もせず、本人にいちばん合った関わり
を知ることです。そのためには一人で悩まないで、保健所での集い・おもちゃ
図書館・母子通園など親ごさんを支え子どもが遊びに親しめる場に参加して、
同じ立場の人たちと話すほうがよいのです。そこで人間どうしの信頼関係も作
られ、親子でコミュニケーションの力を高めてもいけるでしょうし、支えられ、悩んで
いるのは自分ひとりではないということがわかることで、地域社会に入るのが
心配な方も勇気が出てくるでしょう。親子の集いでは、わが子を他の子とつい
比べてしまうかもしれませんが、より早くより多く出来たかどうかを単純に比
較するのでなく、わが子を理解するために個性を見比べるのは悪いことではあ
りません。

8)「健常」のきょうだいを忘れずに
 きょうだいは健常児だから大丈夫と放っていませんか。
また、入院が多いと親ごさんのゆとりもなくなりがちです。
しかしきょうだいも親から目を向けてほしい、小さなことでも認めてほしいと
いう気持に変わりはありません。きょうだいは障害があっても特別ではなく平
等だと思っていますし、それがとても大切なことなのです。たいへんでしょう
が、健常なきょうだいも大事にして、少しの時間でも話を聞いたり、一緒に買
い物に行ったりしてください。そうすれば病気の子にとっても自分が家庭の一
員で世界の中心ではないことがわかり、わがままにもならないですみますから、
かえって親ごさんは楽になれるでしょうし、きょうだいがいてよかったと改め
て感じられることでしょう。

9) 福祉など社会の資源を有効に活用して
  病気や障害をもつことは誰にでもありうるので、そのときに困らないように
福祉はあるのです。親の会などの相互支援の活動もいろいろあります。
子どもが親だけで育てられるはずはありません。
いろいろな人とふれ合うからこそ社会のなかで生活できるようになるのです。
これは地域によって違いがありますから、病院・保健所・役所・福祉センター
などで聞いてみたり、親の会の人に教えてもらいましょう。 

10) 親の会への参加について
  ダウン症の子の親の会には、全国規模の日本ダウン症協会
(JDS:TEL 03-3369-3462)と、各地域の会とがあります。インターネットを
使った日本ダウン症ネットワーク(JDSN )http://www.jdsn.gr.jp
もあります。では、親の会には期待するものは何でしょうか 。診断した医師は
医学や医療からみたダウン症候群は知っていても、親ごさんの本当の気持を知
ることはできませんし、ダウン症の子どもや成人の具体的な生活のようすも知
らないでしょう。親の会でまず得られるものは、他の人にはわからない悩みを
話すことによる同じ立場の人たちとの共感でしょう。それによって辛い気持か
らの立ち直りも早くなります。そして互いに助け合い、子育てや生活のヒント
を学び合うことができます。人に助けられることの大切さを知って心も柔らか
くなりますし、逆に自分よりたいへんな思いをしている人(たとえそれが健常
といわれる子でも)への支援に広がればボランティア活動にもつながっていき
ます。

  全国的な会と各地の親の会とは、究極の目標は子どもたちがより良く生きら
れるようにすることで一致していますが、地域の範囲の大きさや地域の特性で
役割に少し違いがあります。
 子どもを本当に愛し受けとめる「受容」の時期は早くても2年ぐらいはかか
るものですが、時間をかければ誰でも受容に行きつくものです。受容できない
と一人で悩むことなく、いろいろな人と話をして気持を聞いてみるとよいでし
ょう。
  心理相談員をしているあるお母さんが「悩みを話せるようになったら心配
ないけれど、出来る出来ないにこだわっているうちは心配」と言っておられま
した。ふつうでも子育てに悩みはつきものです。自分の心に蓋をして隠してし
まっては心身ともによくありません。思い切って心を打ち明けられる友達を作
ることです。これは親の会の大きな目的でもあります。

 どんな障害があっても、その子の人格は尊重されるべきです。それには、人
と人との共感と信頼関係が欠かせません。それが親子でもお互いの関係の基本
的姿勢なのです。いつもその子育ての基本に思いをいたらせるならば、ダウン
症の子を育てることも難しいことではないのです。

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このメッセージを作るにあたって、多くのダウン症親の会やダウン症の子の医
療・療育の専門家の方々に読んでいただき、共感と助言をいただきました。謝
辞を心から申し述べます。

    
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 <家族と健康 1999年6月1日+7月1日 に加筆>

   ダウン症の出生前診断とその遺伝相談
        静岡県立こども病院 遺伝染色体科 長谷川知子

   出生前診断のめざましい技術的進歩に比べ、対象とされる疾患や罹患した
人々への理解は大幅に遅れており、それが出生前診断をめぐる重大な諸問題の
一因と考えられている。  特に標的とされる疾患がダウン症であることから、
ダウン症やダウン症をもっている人々の社会的理解を促す必要性を切実に感じ
ている。そのためにここではダウン症をもつ人の全体像を端的に述べる。まず
出生前診断におけるダウン症の意味や、染色体構成、合併症・併発症などを解
説し、さらにダウン症の子を育てている親の気持ちを紹介しながら、家庭や社
会の受け入れについて述べる。

T)出生前診断におけるダウン症の意味
    出生前診断を求める人が対象とする疾患のほとんどがダウン症(ダウン
症候群)のようであるが、ダウン症は特別多いわけでもなく重症でもない。そ
れなのにダウン症ばかり検査の対象とされるのはなぜだろうか。その理由とし
ては、ダウン症の染色体分析が容易なこと、頻度が少なくはないこと、母体血
による検査法が利用可能であることや、加えて、様々なメディア、特にマタニ
ティ雑誌などに載せられることが多く、特に35歳を過ぎると頻度が急に上昇
するかのように伝えられているために観念的な強迫感が作られていることが考
えられる。知的障害の中でもダウン症は多いわけではない(原因不明の障害が
圧倒的に多いが出生前診断はできない)。出生前診断では様々な異常が判明す
る可能性があるのだが、そもそも産まれてくる子の5%以上には何らかの異常
がある。このような事実も知らないで出生前診断を受けては、結果が出てから
パニックになって当然であろう。胎児がダウン症であったとしても、診断され
てから慌ててダウン症についての情報を探すのでは遅すぎる。ただし、出生前
診断の際に妊婦のほしい情報は子どもの状態以上に育児情報、すなわち、この
子を自分が育てていけるかどうかという判断をするための情報であろう。 

U)ダウン症とダウン症をもった人は違うことに注意
      ダウン症とダウン症をもった人が違うのは当たり前のことのようである
が、実際は混同されているのではないか。ダウン症とは一番小さい21番染色体
のトリソミーによって作られる特徴や異常であるが、ダウン症の人も基本的には
普通の人であり、ダウン症は付加された一面にすぎないことが忘れられがちのよ
うに思う。 それは例えば、よく聞かれる「かわいいダウン症」とか「ダウンち
ゃん」といった表現が不適切と気づかれていないことなどである。   

V)染色体構成と遺伝的再発率
       ダウン症の原因のほとんどは染色体不分離によって21番染色体が3個
に増えた標準型21トリソミーである。残りの2〜3%くらいが転座型で21番
と14番が癒合したロバートソン型転座が最も多い。ほぼ同率で21番どうしの
同腕染色体もみられる。まれに21番のタンデム型重複もある。次子の再発率は、
母親に転座がある場合に約10%、父親由来では2〜5%となるが、21番の同
腕染色体型を親がもつ場合は産まれてくる子どもの全てがダウン症になる。標準
型では年齢を問わず1%くらいの再発率になるが、その原因としては不分離の傾
向がある人や性腺モザイクの存在が考えられている。この1%をどう解釈するか
は人それぞれだろうが、1%という数値は、ダウン症でない率が99%というこ
とでもある。

W)特徴と異常
      ダウン症の特徴のうち生命や生活に支障がなければ、それは単なる特徴で
あって障害ではない。 ダウン症による主な生活上の支障とは、発達が緩やかな

と(発達遅滞)と合併症の可能性である。育児にしても医療などの関わりにして
もそれを知って対応すればいいのであり、ふつうの医療現場でみられる疾患と何
ら変わりがないはずだが、ダウン症とか染色体異常という用語から特殊と思い込
まれて構えられやすいのは残念なことである。それぞれの子は身体的・精神的個
性をもっている。疾患面の個体差以前に、親から全ての遺伝子を受け継いでいる
ので心身ともによく似ているのは当然であるが、生活環境にも大きく影響されて
いる。こうして個性は作られている。 ダウン症の人には普通以上の優れた面も

り、それは特に人間関係で発揮されている。
 ただし染色体異常があると胎内での生育がしにくい。産まれてきたということ
は両親から与えられた良好な生命力などの資質と共に、子宮内での状態が良好で
あったという証拠でもある。
 
X)合併症と併発症
     ダウン症にみられる合併症や併発症は多くの本に書かれているので省略す
るが、これは多種多様である。親たちは告知後に不安にかられて本を調べ、書か
れた多くの合併症にいっそう不安をかきたてられる。そのような場合、お宅のお
子さんのことが書かれているわけではないと話す。これは医師が見落さないよう
に多くの例から病気だけ集めて書かれたので、ひとりの子に全ての合併症があっ
たら生きてはいない。また、合併・続発症のほとんどない人も多いことも伝えな
くてはならない。合併・併発症は早期発見が大切だが、そのために余計な不安を
作ってはならない。むしろ親が異状を早く感じとれるよう普段の状態を知るこ
と、
定期検診で医師がチェックしていくことが必要である。ダウン症にみられる合併
・併発症のほとんどは治癒可能である。

Y)告知と受容への過程
      育児において一番重要なことは、親がその子を理解し全てをありのままの
姿を受け入れ、愛情をもって育てること、すなわち受容である。それは、創られ
た理想の子どもではなく、現実を見据え受け入れることでもある。その中に今ま
で見えなかった貴重なものが見えてくる。しかし、親が子どもの基本が親の遺伝
子を受け継いだ我が子だということを忘れて異常の面だけを見てしまうと、自分
とのつながりが見えないので親子の心も通いにくくなる。さらに健常児に近づけ
たいと非現実的な目標に向かって頑張ることにもなり、子どもの心を見失い育児
が負担になってしまう。ただし全てを受け入れることは子どもの言動の全てを許
すことではない。
 親がダウン症をもつわが子を受容するのはさほど困難なことではない。経験的
にみて、否定的で非現実的な情報で束縛されなければほとんどの人は受容できる
と思う。一部にみられる受容のしにくい性格や過去の心的外傷を負った親に対し
ては精神心理療法を行う必要があろう。子どもの育児拒否や治療拒否の問題は一
種の虐待と考えられるので、それに準じた対応(まず育児できない親を強力にサ
ポートすること)を考える必要があろう。

Z)家庭の受容から社会の受容へ
   親以外の家族・親族へ理解を求めることは社会の受容への第1歩である。
中でも、親をとられたと思うきょうだいをも受容し、溺愛で過保護にしがちな祖
父母の気持を受けとめ理解を求めていくことは、家庭に安定につながる。これは
障害をもっていてもいなくても同様であろう。家庭や社会の中で孤独感をいだく
ことが最もよくない。社会の多くの人は接した経験が少ないので、日常的に接す
ることで理解を求めていく。現在、社会福祉の基礎構造改革が進められており、
それは地域社会での普通の暮らしが基盤とされることから、偏見も減少すること
が期待される。障害をもっていても社会の受容がなされるならば、それは出生前
診断の選択に大きく影響するであろう。
   ダウン症の人は普通の生活をするのに大きな支障はない。普通の生活とは、
歩くこと、走ることや、食事、着替え、トイレ、風呂(風呂掃除もできる)など
の身辺自立。言葉や動作によるコミュニケーションによる豊かな生活が可能。自
炊で下宿生活をしている人もいる。自転車には乗れるし、水泳もできる。空手、
柔道、剣道、サッカー、バスケットボール、社交ダンス、バレエ、エアロビクス
、楽器演奏、和太鼓、絵画、茶道、釣り、など生活を楽しんでいる人も増えてい
る。ボーイ(ガール)スカウトで張り切っている人もいる。就労も多様になって
きている。

[)ダウン症をもつわが子を育てている親の気持から
(1)産んで良かったと80%の親が言っている(平成9年度、京都トライアング
ルの調査から)。理解や支援が増えればこの比率は増加するであろう。
(2)親に良い影響を与え、大人をも成長させてくれる子と評価される。人として
生きるということや人権感覚を学んだとか、今までに見えていなかったことを気
づかせてくれた、この子を通じて家族も良い人間関係を作れるようになったと言
う人が多い。
(3)育てている母親の多くが、とても可愛い、育てるのが楽しい、育てた通りに
報いてくれると言っている。この子がいて家族の絆が強まったという人は多い。
(4)父親がよくかかわってくれる家族も増えてきた。接する時間はたとえ短くて
も、子どもが可愛くてたまらないという人も多い。「このごろ母親に似てきて
ね」
と嬉しそうに言う父親の例のように、ほとんどの子は、かけがえのない家族の一
員であり、大事に育まれている。
(5) むしろ育てやすい子、ダウン症でないきょうだいより育てるのが楽だったと
言う親は多い。ダウン症の子全員が楽とはいえないが、普通でも大変な子は少な
くなく、ダウン症だから特に負担がかかるということはない。たとえ大変でも
「苦ではない」と言われる。

\)本人・家族の会、支援団体
  いかなる障害があっても、ケアとサポートがあれば育てられるという仮説を
立てている。

 ダウン症や発達遅滞に関する静岡県における総合情報は、この「ダウン症児
の将来を考える会」や、県および地域の「手をつなぐ育成会」などで知ること
ができる。

 全国の情報は:  日本ダウン症協会(JDS) 
       TEL  03-3369-3462  FAX  03-3369-8182
 日本ダウン症ネットワーク(JDSN) 
       インターネット・ホームページ http://www.jdsn.gr.jp
              <各地の自助・支援団体とのリンクがある>
 各地域の親の会の情報は
  小児専門病院、保健所、福祉事務所、社会福祉協議会などにも情報が
  ある。

☆ このように実体を知ることで、ダウン症をもった人と家族が正しく理解さ
れ、
支援も適切になされることを期待したい。出生前診断を強く要望する人のなかに
は、心に大きな偏見が残されていて、そのため子どもに障害があったら受容は不
可能と思い込んで不安になっていることも多いかもしれない。それは、過去に辛
い体験があるのかもしれない。あるお母さんは、学童の頃、同じ学校にあった特
殊学級の雰囲気が厭だったし交流もなかったので、その印象が頭から離れられな
いと語っていた。こういう心や生活環境の問題についても親の会などの場でぜひ
話し合ってほしい。


静岡ダウン症児の将来を考える会への
問い合わせ・連絡などはこちらまで
お願いします。

shizuoka-d@nifty.com


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