T.「しつけ」は、なぜするのでしょうか? 子どもにかぎらず、人は誰の手も借りずに自分の欲求を満たしてゆけたら、 こんなに幸せなことはありません。 たとえば、子どもが おしっこをしたくなったとき、近くにお母さんがいなければ させてもらえなかったり、「出たいよ」と訴えているのにわかってもらえなかったら 我慢しなければなりません。間に合わなければパンツを濡らしてしまわなけばなり ません。いずれにしろ、不愉快な思いをしなければならないでしょう。 もし、自分の行きたい時に行けたら、自由に行動できるのです。 「自立」をするということは自由であるということです。「しつけ」は、その自由な部 分をひとつづつ獲得してゆくために生活の技術を教え、社会のルールを教えてゆく ことではないでしょうか。 食事のしつけをするのも、排泄のしつけをするのも、そうした自由な部分を広げ てゆくことです。 自分の身のまわりのことは自分の力で処理できること、そして、 最終的には、自分の生活を自分の責任で処理し、経済的にも責任が持てるよう になった時に、ほんとうの自立が確立するのだとおもいます。 「排泄のしつけ」は子どもの自立のための大切な援助のひとつです。 けっしてお母さんの洗濯の回数を減らすためのものではありません。 排泄や食事のしつけは、生理的な要求と原理にしたがって進めると、 スムーズに進むものなのですが、子どもの状態を考えずに親の方針を押しつける ような無理な方法で接すると、逆にとてもややこしい状態を作りだしてしまう、やっ かいな面も持っています。子どもの発達を見ながら進めてゆくことが大切です。 一つのステップが まだできないうちに、親が勝手につぎのステップを要求して、 子どもができないと叱っていることはないでしょうか。 U. 排泄のしつけで心がけたいこと @ 快 − 不快の感覚を知る 赤ちゃんは、からだの中に不安定な状況を感じると泣いて表現します。 快 − 不快という形で周囲の状況をとらえる段階です。 この時期は、まだ感覚の分化が進んでいないので、泣くことは、お腹がすいた 時であったり、おしっこがでたかったり、どこかが痛かったり・・ 自分の体の中におこった不安定な状況を、泣くことで表現します。 この時期に、清潔な気持ちのよい状態と、濡れて気持ちの悪い状態との区別 がわかるようにすることが大切です。 その意味では「赤ちゃんはいつもサラサラ …」のうたい文句にあるオムツは 感心しません。快 − 不快の感覚が育ちにくくなります。 最近、3歳になって他には問題がないのに、オムツをつけて相談に来る子ど もが多いのです。 生まれてこのかた 紙オムツ党というお母さんが多いのにびっ くりします。時に応じて使うことはよいのですが、誰のためによいのかを考えて、 使いこなしてください。 A トイレですることを知る おすわりがしっかりでき、足にも力がついてきたら、オマルやトイレですること を練習してみます。 朝おきた時、食事の前、寝る前、外出の前などに一度トイレ に行くようにします。必ず排泄させるというのでなく、出ても出なくても坐らせてみ ます。 外出する前にトイレに行く習慣も、この時いっしょに身につけることができる でしょう。 B 子どもの訴えを聞く 子どもは尿意を感じると、お母さんにまとわりついたり、ウロウロと落ち着かな くなったり、パンツの前に手をやったり、何か信号を発します。 そんな動作に気をつけて、タイミングよくトイレに連れていきます。 少し大きくなると、「ない!」とトイレに行くことを拒否することがよくあります。 そんな時は、あまり無理せずに様子をみましょう。 出たくないのではなく、「行きなさい」と言われたことに反発することがよくあり ます。その結果おもらしをしてしまった時は「あーあ、ぬれちゃったね。こんどはトイ レでしようね」といっしょに残念がって、パンツを替えてやりましょう。 濡れてしまったとき叱っても意味がないでしょう。濡れたときに「ぬれた」と訴え てゆける親子関係が必要です。出るたびに叱られていると、お母さんに叱られる 苦痛よりも濡れて気持ちの悪いことのほうが、まだ我慢できるのです。 せっかく濡れて気持ちが悪いことがわかっているのに教えなかったり、時には わざわざ隠れてしてくるようになっては、とてもかわいそうです。 お母さんは、困ったとき、気持ちの悪いときに、安心して訴えていけるところで あってほしいとおもいます。 C 失敗することも体験させてみましょう お母さんがいつも時間をみはからってさせていると、失敗は少ないかもしれま せん。 「この子は家では失敗しません」という子どもが、保育園や幼稚園に行った とき全くダメということがよくあります。 自分から訴えてゆくことが身につかないで いたり、時間ぎめで排泄させていると膀胱が一杯になるまでためておくことができ ずに、ある程度たまると何となく出してしまうこくことがよくあります。 膀胱が一杯になってトイレまで持ちこたえる緊張感も大切なことなのです。 モジモジと我慢しながら遊んでいて、ついジャーッとやってしまうことも大切な経験 でしょう。 自分のもらしてしまったおしっこを、手でピチャピチャといたずらしてしまう子ども もあるでしょう。お母さんがすぐに後始末をする様子を見せましょう。 子どもはまだ清潔の観念がありませんから、おしっこで遊ぶことをおぼえると つぎにもまたやってしまいます。そのつど「きれいにしようね」と話しかけながら、 雑巾でふくことを見せていると、時には自分で始末をしたりします。 「おしっこも教えないのに、雑巾でふいたりするんです」というお話しはよく聞き ます。とてもほほえましいことですね。失敗したことよりも、失敗をどう処理できる かのほうが大切なことなのです。 この時期は、失敗しないで過ごした日があるかと思うと、つぎの日は一日中 おもらしばかりだったりして、お母さんをいらいらさせます。試行錯誤をしながら 体で覚えていくのですからとても大変なことです。あせらずに見守ってあげてくだ さい。 ダウン症などの子どもの場合は、この時期が少し長いかもしれません。 でも、こんなときは、“パンツをはく練習がたくさんできた”と思う余裕をもってくだ さい。おもらしの多いのを利用して「パンツを替えようね。足をだして…」など、 お話しをしながらすれば、パンツをはくことを覚えるでしょう。 D 排泄にかかわる事柄は一連の動きとして身につけましょう 少し大きくなってトイレにいけるようになったら、トイレに行く → パンツを下ろす → 排泄 → 後始末 → 手を洗う → パンツをはく という一連の 行動をとるようにします。 一つ一つを切りはなして教えるのではなく、一つ一つ の行動は不完全であっても、常に同じパターンでくり返せば、身支度や手洗い のことまで身についてしまいます。 その間、お母さんがあれこれと用事をはさ んでしまったり、お尻を出したままとびはねている時間を作ってしまわないよう にしましょう。お母さんがトイレにいくときと同じ心がけですればよいのです。 排泄の自立は 個人差が大きいものです。何才でできるようになったかは お母さん方の大きな関心事ですが、できるようになった時期を自慢しあうので なく、どんなふうに身についたかが大切です。 将来、親から離れても、上手に訴えて、処理できるようになっているでしょうか? おもらしをしないとか 技術的にうまくできることよりも、自分から訴えること のできる子どもに まず育ててください。 |
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