静岡
ダウン症児の将来を考える会

総会第二部 河内園子先生との談話会(要約)

「自立とは何か?」
(平成12年6月11日)

河内先生のお話


 静岡は会が歴史が古いので、地元で大きくなったお母さんたちの話が聞ける。
 そういう地域は全国的に少ないのではないか。

・ダウン症というわくにとらわれてすぎているのではないか。
 小さいときは自分自身の人生のなかに夏木さんを重ね合わそうとしていた。
 夏木さんはダウン症とう症状を持ちながら自分の人生を形作っているということを
 感じている。

・自立の基本
 自分の命を守る力を生まれながらに持っている
 その力を活用しながら生活の技術を身につけていくということ。
 食べる力・飲む力など身辺のことと関わる中で自分の利益になることを上手にとりこめ
 るかということを工夫してあげるのが私たち親の役目ではないか。

 ダウン症の子は食べる・飲む意欲が弱いので、食べさせる、食べて貰うという気持ちが
 親の方に強くなってします。親の方がそこにとどまってしまう。
 食べたい、という意欲を大事にするべきである。
 まず、自分の手で食べる、次に道具を使うという順序があることを頭に入れておいてほしい。

・20歳以上の人に対して、食べる支度が自分ではできないと親の方が思っていないか。 
 自分で考える・・食べる物、食べる量。
 食べるということからいろいろなことができる。
 食べたい→手を洗う→座って食べる
 指示されていたことを自分で雰囲気を察知して自分から行動をおこすようになる。 
 どういうところでどういう行動をとったらいいかという判断力をつけていくことが大事
 になってくる。自分で解決する力がつく。

例:あるときのおやつの時間、夏木さんが手を洗わなかった。手を洗うように言ってもが
  んとして聞かなかった。それで「手を洗わないんだったらいいね。」と言って兄弟だけ
  で食べてしまった。そうしたら兄弟が遊びに行った後、ぱっと手を洗ってぱっと食べ
  てしまった。それまで、となりの部屋で食べたいけど手は洗いたくないというジレン
  マに陥っていた。このジレンマと闘うことが大切。それで、手を洗うことがどういう
  事なのかが身についてきた。
  親が、まあいいわと言ってしまうことはこどもに歩み寄っているようだが、本人のプ
  ライドを無視している。特別にすることは本人に力がないと認めた事になり、それは
  本人のプライドを非常に傷つけることになる。
  食べることを中心にした家庭の中でのルールは社会の中でも通用する。
  例外を作ると社会の中で例外が許されなかったときに傷つく。ただ家庭中でのルール 
  が受け入れられないときはその時考えるだろう。考えるという葛藤があることがとて
  も大事なこと。家庭の中で葛藤をたくさん経験していれば外でもできるようになる。
  兄弟がいない場合、一番上の子の場合はお母がいろいろなところに出かけたりして、
  場を設定してあげることが大切になってくる。


・力を活用していくための環境を準備していくのが親に課せられた問題
 学校生活12年間はこどもが変わる時期。教育の場は大きな影響を持つ。
 普通学級・・ダウン症は少数派になる。同じ歩調でいくことは少ない。保護されたり
 面倒をみてもらったりという関係がある部分でどうしてもできてしまう。それはある意
 味デメリットでもある。
 養護学校・・絶対的に多い集団の中の一人になる。いろいろな状況の中で学ぶことが多
 い。普通学級では自分より力の弱い人の面倒をみるような場をなかなか得る事が出来な
 い。そのときは年少のこどもとのグループとか責任を持って何かをしてあげられるよう
 な関係を作ってあげる必要がある。
 保護されて暖かく見守られていることが幸せだと本人たちが感じている訳ではない。
 夏木さんの場合、養護学校に入ってから自分より力の弱い子との関わり方がだんだん的
 を得てくるようになっていった。 
 学校全体の雰囲気は成長に影響を持つ。

 12年間の学校教育の場で、その子にとって今一番しなければならないことは何なのか
 を両親、家族がきちんと把握していなくてはいけない。
 先生と親といっしょになって環境を考えていかなければならない。

 夏木さんの場合、学校時代いろんなことをしでかしてくれた。
 行動したから失敗もあった。学校時代マイナスの評価を受けたことでも、社会に出た
 ときそれがプラスになっていくこともたくさんある。
 先生に合わせるためにこどもに「こうしてはだめ。」と決めつけるのではなく。先生と
 こどもと意見が合わなくて不都合があったときは、こどもの中に成長があったという
 見方をしていくのが正解なのではないか。

 例:体操着が乱雑に袋に入っている=時間に間に合うことに主眼をおいている先生 
    だったら家ではていねいに服をたたむようにする。
    先生が替わるたびに、家での対応を変えていくということをしていかなければいけない。
 
・社会に出てからも変わる。学んでいく。
 最近のエピソード
 1.ある会合の集合時間に間に合いそうもなかったとき、タクシーを使った。
   しかも療育手帳を使って1割引で乗った。自分に責任を持って任された時はきちんと
   やれる。
   ダウンの会のお仕事会は遅刻をするが、そこは許されるところとして自分で判断して
   いるのではないか。その場の必要度は考えてやっている。

 2.ひとりで留守番をしたとき、夕ご飯はコンビニで買って食べた。夜中は心配で眠れ
   なかった。しかし、翌日のおもちゃ図書館には遅刻せず出席した。
   許される場、許されない場というのも社会の中で学んだ。

 3.今まで1000円札を出しておつりを貰うというやり方で買い物をしていた。
しかし、小銭を出して720円の本を買った。これも10年の社会人生活のなかで
学んできたこと。

こういうことは無理かなということが未だに親の中にあって、こういうことが示されるたびに親の方も反省をしている。

教えたわけではないが、見て覚えていて、生活の中で生かしているということがよくある。体験が大事だということをつくづく感じる。
エピソード
1.友人の出産祝いをデパートで買い、宅配を頼んだ。しかも、こどもの日を指定して。  
2.卒業した学校の卒業式に電話を使って祝電を打った。
教えたことはないが、親がやるのを見ていて、いつかやってみようと思っていて、実際その場面で使うことができる。やってみたいことをやってみるという彼女の性格。人間的な広がりがあって、やる場所ができていく。

彼女は3歳まで歩けなくて、言葉の発達も早いほうではなかった。算数については高等部まで公文に通ったが小学校1年生の域を脱しえなかった、そういう力。しかし、自分の生活に必要なことは学ぶ力がある。学校の教科の問題でいろんな事を評価してしまうのはいけないこと。「ダウン症の会」という親の会の意味は行政との関わりという意味もあるが、ダウン症の子育てという意味でダウン症を持ったいろいろな人の話を聞きながら、特性を生かすということがないとなかなか理解できないのではないか。30歳になってもまだまだ毎年新しい発見がある。
ダウン症でも自閉症でも一人一人みな違う。「ダウン症だからこうね。」というのは一種の逃げかなと思う。ひとくくりにしてしまうことの危険性というものを皆さんの中に持っていてもらいたいと思う。

福祉制度が変わるにあったって

 社会福祉事業法は改正となり、社会福祉法が6/7より施行され行政の仕組みが変わります。

これからは、「選択の時代」になる。今までは、行政側から決めてきた枠の中でしか物を考えることが出来なかったが、これからは、自分たちで、申請などをしなければならない。

判断する力を、障害者自身がつけていけるように、これからは、家庭などでも訓練した方がよい。イエスばかりでなく、ノーが言える人に。 

 たとえば、レストランで食事を選ばせる。メニューをひとつずつ説明してあげる。「

1,000円以内で選んでね。」など。小さいことでも決断をし、自信を持たせることが大事。失敗しても、「その原因はこうだからだめだったんだね。」と、理解させていく。

 ダウン症の特徴として「頑固」と言われますが、それはノーの理由を説明できないだけなのかもしれない。なぜノーなのか?理由をゆっくり待ってあげる事も必要。

質問コーナー

Qダウン症のお子さんを育てて良かったと思うことは何ですか?(乳児の親)

A夏木は、弱い存在であるのに、家族を中心とする周りの人間の価値観を、変えさせていったこと。夏木を通して、いろいろな方と友人になれたこと。いろいろな方の思いが理解できること。おいしいゼリーが出来たように、子育てが知らぬ間に出来ていたという感じです。 (中村さん)人生の喜びを増やしてくれた。

Qお小遣いの使い方は、どのようにしたらよいですか?(20歳女性の親)

A障害者基礎年金の一ヶ月の手当の内,生活費として5万円を親が管理し、残り2万円くらいは、その子のお小遣いとして考えてみたら?週5千円で始めてみる。なれてきたら、月単位で渡す。お金を使う体験がないと自信を持てないので、少しづつ体験をさせる。

 普通の20歳の若者であっても、お金の使い方は、親から見ても下手。1万円もするビデオを買ってくると親の方が不安になってしまうが、お小遣いの中でやりくりできているのだから、よしとすべき。夏木が、給料で靴下、ハンカチなど買ったことを、たくさんのひとに言って、「自分の物を働いたお金で買ったの?偉いね。」などと声をかけてもらって、

お金の使い道を知ることもあった。

 (水野さん)子供の行く近所のコンビニ、レンタルビデオ屋など日頃から頼んでおく。何かあったときに対処してもらって助かったときがあった。

Q男親として、どのように接していったらいいですか?(乳児の父親)

A(小学生の子の父親)普通と同じ、お風呂に一緒に入ったり、遊んだり、怖い顔は見せなかった。(同母親)子育てに父親を積極的に巻き込んでいった。

(中学生の子の父親)子供が、小学生高学年くらいの時期に、自分の部屋に閉じこもってしまう時期があった。その時に、社会性を身につけさせなければいけないと強く思った。

買い物に行くときに、店でカードを作らせたり、レジで、お金を払わせたり、親は、少し遠くで黙って見ているようにした。あとは、普通の子育てと同じ。

(河内先生)母親は、日常の細かなことに気をとらわれすぎているが、父親は、物事を、大きく捉えている。その大まかさが母親を安心させる。そういう存在で良い。


                                           文責 小川、山田


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